2022年11月25日
採用において求職者のソーシャルメディアを評価に用いるのは有効か
2023年3月卒の学生を対象に行われた調査があります[1]。「就職活動において、実名を伴ったソーシャルメディア・SNSの活用についてどう思いますか」という問いに対し、全体の57.1%が活用したい意向を示しました。これは、2013年卒の学生より27.6ポイントも高い値です。10年前と比べて、実名でのソーシャルメディア活用への抵抗感が薄れています。ソーシャルメディアに対する抵抗感が薄れた背景は、2つあります。一つは、ソーシャルメディアが社会に普及し、ソーシャルメディアに接触する機会が増えたことです。もう一つは、物心ついた頃からインターネットが身近にあるデジタルネイティブが成人期を迎えることです。ソーシャルメディアの利用が日常化した結果、抵抗感が薄れているのです。
こうした動向を踏まえ、本コラムでは、採用において求職者がソーシャルメディアを用いることが、企業の採用活動にどのような影響をもたらすのかを考察します。
不確実性を削減したい企業
求職者がソーシャルメディアを用いた際に、企業の採用活動に与える影響を考える上で、企業にとって採用がどのような活動かを理解する必要があります。まずは、採用活動に求職者のソーシャルメディアを用いたいと企業側が考える背景を見ていきましょう。
企業は自社に合った人材を採用したいと考えています。その目的を達成するため、企業は採用のプロセスを通じて、求職者に関する「不確実性」を下げようとします。不確実性とは正確な予測が難しい状態であり[2]、採用の文脈で言うと、企業が欲しい求職者の情報に対して、実際に得られた情報が足りないことを指します。
不確実性が高い状態では、企業は求職者が自社に合っているかを判断できません。求職者の適性を評価するために、企業は求職者の情報を求めます。要するに、企業は不確実性を削減しようと動機づけられるのです。こうした企業の傾向は、学術的には「不確実性削減理論」で説明されています[3]。
求職者に関する不確実性を削減するために、企業は主に2つの方法をとります。一つは、書類選考です。例えば、履歴書やエントリーシートなどの書類を用いて、求職者の実績や資格、経験、学歴といった情報を得ます。もう一つは、面接です。企業は面接における求職者との対話によって、求職者の性格や能力などの情報を集めます。
しかし、不確実性を削減するための、これらの方法は十分ではありません。まず、情報量が足りません。書類や面接で情報は得られますが、十分な量であるとは言えません。続いて、情報の質に疑問が残ります。求職者から提供される情報は、自分をよく見せようとして示されたものかもしれません。
量と質の両面において情報不足が生じているのが、採用をめぐる企業の現状です。ほとんどの企業は求職者に関する情報不足にあえいでおり、新たな情報源を求めています。そうした中で注目を集めているのが、求職者のソーシャルメディアに掲載された情報なのです。
求職者のソーシャルメディアを用いた評価
企業は求職者に関する情報不足を補うために、新たな情報源として、求職者のソーシャルメディアに価値を見出しています。企業は求職者の理解を深める目的で、ソーシャルメディアを活用しようとします。
しかし、これまでの研究を参考にすると、求職者に関する情報を適切に推論する情報源として、ソーシャルメディアはあまり期待できません。例えば、求職者のソーシャルメディアにおける写真が、求職者の評価に与える影響について分析した研究があります[4]。
この研究では、ソーシャルメディアのコンテンツをもとに、学生の評価を行いました。自己紹介文は統一しましたが、勉強している写真、家族と一緒に過ごす写真、お酒を飲んでいる写真をそれぞれ掲載するパターンを設定しました。写真以外は同じ情報が学生から提供されているということです。
その結果、お酒を飲んでいる写真が載った学生の評価が低くなりました。具体的には、選考に進めて良いと判断される割合が少なく、想定される初任給も低かったのです。この研究からは、写真が変わるだけで、求職者の印象が変わり、評価も変わることがわかります。
写真だけではありません。ソーシャルメディア上の文章も、求職者の評価をゆがめかねません。ソーシャルメディアから収集した情報と企業による評価の関係を調べた研究があります[5]。ポジティブな文章を書く求職者に対して、企業は「自社に合っている」と考えることが明らかになりました。ネガティブな文章を載せた求職者には、その逆の評価がなされました。
この研究では、ポジティブな文章の好影響が、ネガティブな文章の悪影響より大きいことが示されています。本来、人は相手のネガティブな側面に目を向けがちなのですが、こうしたネガティビティ・バイアスが発生しなかったのは驚きです。企業はソーシャルメディア上の文章を加点評価の対象として認識しているのかもしれません。
研究結果を踏まえると、求職者のソーシャルメディアを用いることで、バイアスの影響を受ける可能性があります。加えて注意すべきは、求職者が掲載する情報が事実とは異なる可能性がある点です。ソーシャルメディアにおける表現内容は、真の自己ではなく、理想化された自己だと指摘する研究があります[6]。本人の本当の情報より、本人が他者に見せたい自分を表現しているのです。
バイアスと情報の質への対策
求職者のソーシャルメディアは、情報の質、及び、情報を評価する際のバイアスという2つの問題を生み出します。しかし、こうした問題があるからと言って、求職者のソーシャルメディアを一切見ないという方針をとるべきでしょうか。もしそう判断するのであれば、従来の書類選考や面接もまた使用すべきではないとの結論になります。
ソーシャルメディアを用いた評価で起きる問題は、書類選考や面接でも発生しています。書類選考や面接におけるバイアスの問題を指摘した研究は、枚挙にいとまがありません。一例として、面接における初期段階の評価が終了時点の評価を相関していることを検証した研究が挙げられます[7]。面接官は第一印象で評価を決めており、こうした即時的な判断にバイアスが忍び寄ります。
従来の手法は、情報の質という点でも限界があります。例えば、構造化面接において、ほぼすべての求職者が、企業側の質問に関係なく印象管理をしていたことが示されています。こうした事実を考慮すると、ソーシャルメディアを利用しないという判断を下すより、情報の質やバイアスといった根源的な問題にどのように対処していくかを考える方が建設的です。
バイアスへの対処に関する基本原則は、即時的な判断を避けることです。人材の良否に関する判断をあえて遅らせるのが有効です。参考になる研究があります。知識を問う質問をした際、1回だけの解答より、2回の解答を平均したほうが正答に近いことがわかりました[8]。
これを採用の文脈に応用してみます。書類選考、面接、ソーシャルメディアのいずれにおいても、評価を一度行うのではなく、一晩寝かせて改めて評価します。その上で、1回目の評価と2回目の評価を突き合わせて、最終的な評価をするのが良いと思われます。
情報の質への対策としては、第三者から情報を集めるアプローチを併せて準備しましょう。本人から情報を収集すると印象管理が含まれてしまうからです。そこで例えば、本人の許可を得て、前職のメンバーに働きぶりを尋ねる「リファレンスチェック」が有望な方法になり得ます。
社員の知人・友人を紹介してもらう「リファラル採用」も一つの手です。リファラル採用においては、社員から知人・友人に関する情報を得られます。リファラル採用の研究は多くなされていますが、総じて、リファラル採用の有効性を支持しています[9]。
本コラムでは、求職者のソーシャルメディアを採用に用いると、どのような影響があるかを検討しました。結果的に、採用の根源的な課題にも触れることになりました。採用を進める上で参考にしてみてください。
執筆者
伊達洋駆
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)など。
[1] 株式会社マイナビ(2022)「23年卒向けマイナビ調査にみるZ世代就活生の価値観」
[2] Milliken, F. J. (1987). Three types of perceived uncertainty about the environment: State, effect, and response uncertainty. Academy of Management Review, 12(1), 133-143.
[3] Berger, C. R., and Calabrese, R. J. (1975). Some explorations in initial interaction and beyond: Toward a developmental theory of interpersonal communication. Human Communication Research, 1(2), 99-112.
[4] Bohnert, D. and Ross, W. H. (2010). The influence of social networking web sites on the evaluation of job candidates. Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 13(3), 341-347.
[5] Carr, C. T. and Walther, J. B. (2014). Increasing attributional certainty via social media: Learning about others one bit at a time. Journal of Computer-Mediated Communication, 19(4), 922-937.
[6] Michikyan, M., Subrahmanyam, K., and Dennis, J. (2014). Can you tell who I am? Neuroticism, extraversion, and online self-presentation among young adults. Computers in Human Behavior, 33, 179-183.
[7] Barrick, M. R., Swider, B. W., and Stewart, G. L. (2010). Initial evaluations in the interview: Relationships with subsequent interviewer evaluations and employment offers. Journal of Applied Psychology, 95(6), 1163-1172.
[8] Ellis, A. P. J., West, B. J., Ryan, A. M., and DeShon, R. P. (2002). The use of impression management tactics in structured interviews: A function of question type? Journal of Applied Psychology, 87(6), 1200-1208.
[9] Zottoli, M. A. and Wanous, J. P. (2000). Recruitment source research: Current status and future directions. Human Resource Management Review, 10(4), 353-382.