2022年2月24日
新刊『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』の「はじめに」を公開しました
出版社の許可を得て、本書より「はじめに」を抜粋して公開します。
はじめに
皆さんは会社の中で、次のような状況に陥ったことはありませんか。
・上司と部下の関係をよりよいものにしたいが、どうすればよいかわからない
・次世代リーダーを育成していきたいが、何から手をつけるべきか見当もつかない
・人事評価に不満を持つ人が多いが、どのような対策が有効か不明である
・本音を言える雰囲気を作りたいものの、具体的な取り組みは何もできていない …など
外からうまくいっているように見える会社でも、実際はさまざまな課題を抱えています。一方で、それらの課題にどう対処すればよいかを調べ始めると、さまざまな情報が大量に出てきます。どれが適切かよくわかりません。
人や組織の課題について、その原因と対策を考えるための良質な「エビデンス」を提供したい。それが本書の狙いです。
本書を執筆する私は現在、株式会社ビジネスリサーチラボの代表取締役を務めています。しかし、元々は神戸大学大学院経営学研究科で研究をしていました(今も研究は続けています)。
本書では、学術界から産業界へ移行してきた私なりの視点から、人や組織の課題にアプローチする方法を解説しています。
本書において特に紹介するのは、「組織行動論」の研究知見です。組織行動論とは、会社の中の従業員の心理や行動について探求する経営学の一領域です(近年は、他領域との境界が曖昧になっていて、本書でも産業組織心理学や組織論などの知見も部分的に参照しています)。
本書は研究知見の品質を重視し、ある程度厳密な手続きを経た実証研究を優先して、取り上げています。ただし、すべての研究知見が皆さんの会社に、そのまま当てはまるわけではありません。自社の状況を踏まえて取捨選択したり、カスタマイズしたりする必要があります。
組織行動論の研究知見をもとに解説する課題は、全部で44項目です。人や職場をめぐる課題を、できる限り幅広く抽出しようと努めました。新任のマネジャーや人事担当者にとっては、課題一覧を眺めるだけでも学びがあるかもしれません。
44の課題を抽出する際には、2つの方法を併用しています。まず、私がこれまで相談を受けた課題を挙げました。私の経営するビジネスリサーチラボの守備範囲は広く、これまで色々な依頼を受けてきています。次に、HR事業者が市場で提供するサービスを列挙し、その背後にある課題を推察しました。
そうして抽出した44項目の課題を読み解く研究知見を取り上げ、原因と対策を説明しています。それだけではありません。本書の重要な特徴として、「副作用」にも言及している点が挙げられます。
薬に主作用と副作用があるのと同じように、人や組織の課題への対策には、主作用があれば副作用もあります。副作用とは、本来の目的とは異なる、望ましくない働きを意味します。
詳細は本文で説明していますが、例えば、基本的によいものとされているエンゲージメントには、残業時間を増やすという副作用があります。
お互いに安心して本音を言える心理的安全性も、個人主義の人が集まるチームでは効果が薄れます。
本書が副作用に一定の紙幅を割いているのは、副作用に関する情報が市場でほとんど出回っていないからです。サービスを提供するHR事業者にとっては、一見不利な情報であるせいかもしれません。あるいは、副作用に光を当てようとする気風自体がこれまでなく、純粋に知られていない可能性もあります。
副作用のない薬はありません。対策が新たな課題を生み出す恐れもあります。会社をよくしようとしての働きかけが状況を悪化させるとすれば、残念なことです。そうした事態を避けるためにも、副作用を知った上で、適切な場面と方法を考慮して対策を講じなければなりません。
本書は前から順番に読んでいただいても構いませんし、自社が課題と感じる項目を中心に読んでいただいても構いません。項目ごとに読める構成になっています。
本書の知見を社内外のメンバーで共有し、具体的な施策に落とすためのディスカッションのきっかけにしてください。本書が、会社をよりよいものにしようと奮闘する方の支援になるとすれば、望外の喜びです。
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
伊達 洋駆
新刊『人と組織の行動科学』について
人や組織をめぐる44項目の課題を取り上げ、経営学の知見に基づいて原因と対策を提示しました。
対策の副作用(対策が新たな課題を生み出す恐れがある点)についても言及しています。
『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)
株式会社ビジネスリサーチラボについて
企業人事・HR事業者をクライアントに、「アカデミックリサーチ」をコンセプトとした組織サーベイや人事データ分析を提供しています。
本件に関するお問合わせ
株式会社ビジネスリサーチラボ
Web:https://www.business-research-lab.com/
Mail:kenkyukai at business-research-lab.com