2022年1月27日
母集団形成を科学する:良質なエントリーを得るための方法(セミナーレポート)
採用のオンライン化が進む昨今においても、エントリーが集まらなかったり、集まるようになっても自社に合わない求職者や志望度が低い求職者ばかりだったりと、様々な悩みが聞かれます。
自社にとって良質なエントリーを集めるにはどうすれば良いのか。学生就業支援センター代表の作馬誠大様をお招きして、マーケティングセールスの実践をもとに検討しました。
※本レポートは、2021年8月にビジネスリサーチラボが開催したセミナー「母集団形成を科学する:良質なエントリーを得るための方法」をもとに編集・再構成したものです。
登壇者
作馬誠大
株式会社学生就業支援センター 代表取締役社長。学生の日本最大級の企業インタビュープラットフォーム「インタツアー」を展開。学生のより本質的な就活とOne to Oneの共感を採用ブランディングにもたらす支援を行っている。
伊達洋駆
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(共著:ソシム)など。
候補者の質を上げるためには「求職意思」が重要
伊達:
新型コロナウイルス感染症がまん延する中で、採用のオンライン化が進みました。オンライン化の半ば恩恵のような形で、応募が少し集まるようになったという傾向が皆さんの会社でもあるかもしれません。
一方で、今度は候補者の質が問題になってきています。具体的には「たくさん集まるようになったのはいいが、自社に合っていない人が応募するようになってしまった」あるいは「自社に対する志望度が低い人も応募してくるようになった」といった声が聞かれます。そのような背景を踏まえ、本日は候補者の質を上げるために参考になる研究知見を提供できればと思います。
本日注目する研究は、「求職意思」に関する研究です。求職意思とは「候補者が、その会社の選考を受けようと思うこと」を指します。例えば、「応募書類を出そうかな」「面接に参加してみようかな」といった気持ちのことです。求職意思を高めることができれば、母集団形成はやりやすくなります。
求職意思を高める要因(1)良い仕事内容
求職意思を高める要因は、大きく分けて4つあります。1つ目は、良い仕事内容を提供することです。例えば、報酬が高い、昇進できる、興味を持てる、楽しく働けそう・・・といった仕事を提供している求人に対しては、求職意思が上昇することが明らかになっています。
採用の現場で活かせるポイントとして、実際に良い仕事内容を提供するという以外に、「仕事内容の伝え方を工夫していく」ということもあるかもしれません。もしくは、実際のところ、仕事内容を採用担当の方々が簡単に変えられないことも多いので、この要因は諦めて他の要因に注力するというのも一つの考え方です。
求職意思を高める要因(2)良い組織イメージ
2つ目の要因は、良い組織イメージがあることです。組織イメージとは、組織に対して良いイメージを持っていること、あるいは評判がいいと感じていることを指します。組織イメージが良いと、求職意思が高まることが分かっています。
組織イメージは2種類に分けられます。ひとつは「表面的な組織イメージ」です。これは、例えば「A社は先進的だ」というような、ざっくりとしたイメージであり、一般的に連想されるものです。先進的とは具体的に何なのか、どこの部門が先進的なのか、どの技術が先進的なのか、までは問いません。
もうひとつは「複雑な組織イメージ」です。これは表面的なものと違って、個別的・具体的に連想される組織イメージのことを指します。例えば、「B社の営業の仕事は、難易度が高く成長できる」といったものです。
では、どちらの組織イメージを高めればいいのでしょうか。これは企業によって異なります。例えば表面的な組織イメージを促すことは、既に有名な企業にとって有利です。なので、有名企業以外の多くの企業では、複雑な組織イメージをいかに醸成していくのかということを考えていくほうが良いでしょう。
母集団形成の際も、よく採用コンセプトを掲げて、それを押し出していくというやり方があります。それはそれで良いのですが、採用コンセプトとなると、表面的な組織イメージを喚起するようなものも多いですよね。それだと、有名企業とぶつかって負けてしまうことになるので、どれだけその採用コンセプトから具体的な連想ができるように、求職者に学習してもらうのかということを考えてみるとよいでしょう。
対策として、候補者が自社からどのようなイメージを連想しているのかをまず理解する必要があります。先ほどの例でいうと、「表面的なイメージとしてはこうだが、複雑なイメージはあまり持たれていない」などといった現状を把握しましょう。現状を把握する方法で一番シンプルなのは、アンケート調査やインタビュー調査などを行って、自社の選考プロセスに参加した人に聞いてみる方法です。
求職意思を高める要因(3)良い採用担当者
求職意思を促す3つ目の要因は、採用担当者の人柄が良いことです。採用担当者の人柄が良く見えると、候補者の求職意思が高まることが明らかになっています。例えば、会社説明会などで、採用担当者の温かい雰囲気を候補者に伝えられているかという点が重要です。
このような、人柄などを伺い知ることを「クリティカルコンタクト」と呼びます。クリティカルコンタクトとは、候補者が企業や仕事に関する情報をあまり持っていないとき、実際に接触する従業員の特徴から、その企業の特徴を推論することを指します。例えば、社員同士が話している様子を見て「この会社は明るい会社で、優しくお互いに助け合う会社なんだろうな」といった推測をします。
クリティカルコンタクトに基づいて対策を考える上で重要なのは、候補者が、自社に応募するプロセスでどんな社員を目にしているか、そしてその社員は、候補者に対してどのような印象を与えているか、という点です。
また、どのようなその印象を残すと良いかという点については、有能な印象を与えることも重要ですが、実は最初に必要なのは、温かさを感じてもらうことです。ですので、温かな人柄を感じられるような社員の方に接触してもらうことが、エントリー前後では必要になります。
求職意思を高める要因(4)高いフィット感
4つ目の要因は、候補者自身がその会社に高いフィット感を覚えることです。
フィット感を高める方法として、企業から候補者に対して、「あなたはフィットしていますよ」と伝えることが有効です。「フィットしているよ」と言われると、(実際にフィットしているかどうかに関わらず)候補者は「自分はこの会社に合っているかもしれない」と感じます。
「フィットしている」というメッセージにより説得力を持たせるためには、候補者のニーズを理解する必要があります。例えば、どんな働き方をしていきたいのか、どんなキャリアを歩んでいきたいのか、といったニーズをきちんと理解し、それらのニーズをうちの会社では提供できます、だからフィットしていますよ、と候補者に伝えられれば、母集団形成に対してインパクトが出てくるのではないでしょうか。
採用活動に、営業マーケティングの考え方を導入する
作馬:
私から本日お伝えしたいことは、営業マーケティングの考え方や仕組みが、新卒採用にも活用できるという点です。
一般的な営業ファネルでは、まずサービスや会社を認知して興味を持ってもらい、比較検討して購入を検討し、購入するという流れになっています。採用ファネルでも、まず会社を知ってもらい、会社や仕事に関心を持ってもらって、応募・選考→内定→入社という流れですので、両者は非常に似ています。ですので、営業マーケティングの仕掛けが採用にも活きると考えています。
ただし、大きく異なる点もあります。営業マーケティング施策においては、リードのプロセスで認知・育成・選別を行います。顧客に知ってもらって、その顧客を育成し、育成した顧客を選別して商談をし、購入してもらうというプロセスですね。一方の採用施策では、リード=母集団形成は、ナビ媒体やイベント、ダイレクトリクルーティングで行います。
このように比べると、リードの部分が大きく違うことが見て取れます。今、営業マーケティング活動では、認知の獲得だけではなく、興味・関心を獲得する、商材を理解してもらう、会社を理解してもらう、そして顧客を選別するところまでを、オンライン上で行うことが一般的となっています。その上で、良質な見込み顧客との商談・クロージングを効率的に確保しているため、商談前のリードが非常に大事になっています。
リードについて説明します。リードには、リードジェネレーション(リードの獲得)、リードナーチャリング(リードの育成)、リードクオリフィケーション(リードの選別)という3つのステップがあります。
リードジェネレーションは、自社を発見し、自社の情報にアクセスしてもらう段階を指します。リードナーチャリングは、アクセスしてきたリードに対して、段階的なアプローチを重ねて意欲を高め、自社の顧客へと育てていくことです。最後のリードクオリフィケーションは、育てたリードを行動に応じて数値化し、意欲の高いリードのみを選別することです。確度の高い顧客を顕在化させて優先順位を明らかにし、営業活動の生産性を高めていく。このようなステップがあります。
各段階の施策として、リードジェネレーションでは、ウェブ広告やSNS広告、コンテンツマーケティングなどを用います。リードナーチャリングでは、リターゲティング、定期的なコンテンツの配信、ミートアップセミナーなどを行います。リードクオリフィケーションでは、リードの動きを分析し、シナリオを設計して、スコアリング・セグメント付けを行うことで、ターゲットを明確にしていきます。
母集団形成に採用マーケティングの要素を応用する
採用にマーケティング要素を入れると、このような図になります。エントリーの上の部分に、母集団形成のためのマーケティング要素として3つのリードのステップを入れます。認知獲得、興味・関心の喚起、志望度醸成・選別を行った上で、エントリーを獲得していくようなイメージです。
まず知ってもらうための取り組みとして、ウェブ広告、SNS、コンテンツマーケティングを行います。その上で自社の強みとしているコンテンツの配信や、ミートアップ・座談会のような緩やかなつながりを持つ施策を、リードナーチャリングの施策として入れていきます。
こういったことを繰り返しながら、この学生はよく自社の情報にアクセスしてくれている、この情報を見てくれている、ミートアップにも参加してくれている・・・という形でスコアリングをしていけば、実際の選考で説明会に呼ぶタイミングを調整できたり、熱量を把握した上で選考につなげたりすることができます。
営業活動では、オンライン化が進んだことによって、営業担当が接触する前に意思決定プロセスがかなりの程度決まっています。具体的には、57%の買い手が、営業担当が接触する前に購買の意思決定を済ませているとされています。このように、営業活動においては、オンライン上でリードを獲得するという活動が進んでいきました。この手法は、昨今のオンライン化が進んでいる採用活動においても有効に機能するのではないかと考えています。
学生側においても、就職活動の早期化が進んでいることが私どもの調査でわかっています。3年生になる前から企業情報を獲得して、どの企業を就職先として選ぼうかと検討する取り組みは非常に増えていますので、早めに認知を獲得し、就職先として意識してもらい、そして熱量を高めるような取り組みをやっていければ、良質なエントリーの獲得につながると考えています。
Q&A
Q.ミスマッチを回避するために、母集団形成において注意し、求職者に訴求すべきポイントは何ですか。
作馬:
やはり情報をしっかり届けることが重要です。伊達さんの講演の中でも、求職意思を促すためのポイントが挙げられていましたが、惹きつける一方で突き放すことも必要です。厳しさや大変さ、成長性みたいなものも伝えていくことで、ちょっと自分には大変そうで合わないな、こういうチャレンジができるんだったらやってみようかな、といった感覚を持ってもらうことも重要でしょう。
また、学生に話を聞くと、情報が少ないという意見がよく聞かれます。どういう軸で選んでいけばいいのか、もう少しオンライン上や、就職活動が本格化する前に情報が得られれば、自分の中でも選別ができますし、企業が求めている人材に見合うようなスキルを身に付けるトレーニングをして臨むこともできます。企業側からの情報発信の少なさがミスマッチを生んでいる原因のひとつでもあるかと思いますので、そこを強化していただきたいですね。
伊達:
ありがとうございます。一方で、情報を一気に届け過ぎないというのも重要ですね。企業側のたくさん情報を伝えたいという気持ちが出るあまり、単位時間当たりの情報量が多くなり過ぎてしまうと、読み流されてしまうことにつながります。少しずつ小出しにしながら、情報を届けていくということも必要です。
マーケティングやセールスの領域における、ステップメールなどとも通じますよね。小分けにしながら少しずつ、学習のステップを形成していくということが大事で、候補者に何を学んでほしいのか、それをどのようなステップで学んでもらう必要があるのかということをきちんと設計しておくのは、母集団形成のフェーズにおいてミスマッチを減らしていくために大事です。
Q.SNSなどを通じて採用広報を行う方法について、参考事例などありましたら教えていただきたいです。
作馬:
注意すべきなのは、リソースの確保が難しい点です。配信内容の作成、配信のための準備、そもそも運用ができるのか、というところをちゃんと見つめていただくことから始める必要があります。
専任の採用担当者がいれば一番良いのですが、なかなかそういうわけにはいかないと思います。SNSは、更新されていないことや投稿頻度の多寡が、学生に対しては影響しますので、運用のプロに任せるのが一番いいと思います。
また、自社アカウントにこだわる必要がそこまでないというのが2つ目のポイントです。配信頻度やネタ、学生をSNSに集めてくる方法など、全部自社の単一アカウントでやろうと思うと結構パワーがかかりますので、SNSで情報を届けながら、例えば月に1、2回配信をしてリアクションを取り、そのリアクションがあったかどうかも含めて分析して、次のコンテンツを考えていく、といったことをプロに相談してやるのが一番いいかと思います。
参考事例ということで補足しますと、年間の配信計画を、ざっくりでもいいので作っておくと運用が回りやすくなります。どのタイミングで、自社のどういう情報を届けていけるのか、配信のコンテンツ計画を作っておかれるといいかなと思います。
伊達:
おっしゃるとおりですね。私もSNSについては、基本的には活用していくほうが、今までにないリードを獲得することができるのではないかと考えています。
特にSNSを通じた広報の魅力の一つが、実態を見せられるということです。実際にうまく使っているやり方として伺った話では、社員の1日をスマートフォンで撮った例があります。例えば「地方で車に乗って営業する」と言葉で言われても、都市部の学生はなかなかイメージしにくいですよね。でも実際は、車の中でいろいろなことをできて、楽しみつつ移動していたりして、電車での移動にはない何かが見える。そして、なるほど、こういうふうに職業として生活するのかというのが見えてきた、という例もありました。SNSは、社員の1日のルーティンや、実態を届けるようなメディアとして優れているのではないかということです。
いろんなところで内定者調査を実施しているのですが、その中でも学生の皆さんが、SNS、とくにYouTubeとTwitterを就職活動で用いるという割合がすごく増えているので、最初はノウハウがないにしても、何かしら継続していくということが一つ大事になってくるでしょう。
作馬:
そうですね。コロナ前ですと、割と採用の合同イベントや合同説明会について、学校で友達と情報交換して、あそこが良かったよ、こういうふうに対策したらいいよ、というやりとりがリアルで行われていました。今はなかなかそういう就職活動ができない中で、TwitterやYouTubeなどの情報ソースを頼るというのは、傾向としては、私も話を聞く中では非常に多いと感じますね。
Q.最近流行のリファラル採用手法で、何か母集団形成に応用できる点はありますか。
作馬:
リファラルは、多くの候補者を集めるというより、社員や学校のつながりで、ピンポイントで取っていくには非常に有効です。特に、コロナ禍で学生がリアルに取れる情報が少なくなってきているので、先輩や身のまわりの人たちに相談して決めていくケースがより多くなってきていると感じます。紹介ルートなどを一旦整理して、戦略的に計画的にリファラルを使っていくのは大変有効ですね。
伊達:
リファラル採用について、紹介行動を促していくために必要なもののひとつが「会社に対する愛着」です。会社のことが好きで、会社のことを大事に思っている人のほうが、自分の知人や友人を紹介しようとするという傾向が研究でも実証されています。
そこで考えるべきポイントは、会社に対する愛着が最も高いタイミングはいつか、ということですが、これは特に入社した直後です。入社後はリアリティーショックを経験したり、いろんな現実を見ながら、冷静になっていきます。ですので、中途採用でも新卒採用でも、入社した直後の人、例えば内定者や新入社員に手伝ってもらうのが一番いいタイミングです。
その人たちに手伝ってもらうといい理由がもうひとつありまして、リファラル採用で難しいのは、普段友達に対して「最近仕事を探してるんだ。いいところない?」というようなキャリアの相談が出にくく、紹介しにくいところにあります。ではいつ声を掛けることができるのかというと、まさに就職活動をするときなんです。就職活動のことを考え始めたタイミングで、ダイレクトにリファラルを送っていくことができれば、母集団形成にも役に立つといえるかもしれません。
(了)