2022年1月19日
自社に合った組織サーベイの選び方(セミナーレポート)
組織サーベイの商品説明は市場にたくさん流通していますが、自社に合った組織サーベイをどのように選べばよいのかという知識は意外にもほとんど広まっていません。各社が手探りで多くのサーベイの中から選んでいるというのが現在の実態ではないでしょうか。
本稿では、自社に合った組織サーベイを選ぶためのポイントを解説します。
※本コラムは、2021年6月に開催した「自社に合った組織サーベイの選び方」の内容をもとに編集・再構成しています。
組織サーベイとは
人や組織の改善のために現状を把握する調査(一般にはアンケート調査)を指す。従業員意識調査、ES調査、エンゲージメントサーベイ等、さまざまな呼び方をされる。
基本的には次の流れで行われる。
(1)従業員にアンケートを配信する
(2)データを回収して分析する
(3)分析結果を基に、人や組織をより良いものにするための施策を検討する
2種類の組織サーベイ;パッケージ型とオーダーメイド型
組織サーベイと一口に言っても、二つの種類があります。一つは「パッケージ型」と呼ばれるもので、もう一つが「オーダーメイド型」と呼ばれるものです。スーツにおける既製品とオーダーメイドと考えるとイメージしやすいかもしれません。
パッケージ型組織サーベイとは
パッケージ型の組織サーベイは、組織サーベイの中に搭載されている質問項目や、回答データの計算・分析方法、アウトプットのフレームワークが、半ばほとんど固定されているのが特徴です。カスタマイズして質問項目を幾つか追加することができるものもありますが、基本的にはほとんどの機能が固定化されており、あらかじめシステムとして組み込まれています。
多くの場合、商品名が付けられて、プロダクトとしてリリースされています。また、近年ではタレントマネジメントシステムや採用管理システムなど、さまざまなシステムに一つの機能として組織サーベイが搭載されているケースもあります。
パッケージ型の例として、せっかくなのでビジネスリサーチラボで開発を支援させていただいたプロダクトを紹介できればと思います。「マイナビエンゲージメントリサーチ」という、エンゲージメントとその要因を可視化するパッケージ型の組織サーベイがあります。この開発に弊社と筑波大学の方々と一緒に協力をさせていただきました。
その他にも、皆さんの会社で既に導入しているもの、もしくは導入を検討している組織サーベイはたくさんあると思います。
オーダーメイド型組織サーベイとは
オーダーメイド型組織サーベイは、その名の通りパッケージ化されておらず、それぞれの会社の状況や課題感、目指すべき姿に応じて設計されるものです。そのため、質問項目や計算方法、アウトプットが会社ごとに異なります。会社の状況に合わせてサーベイを設計し、得られたデータを基に、手動で必要な分析を行っていきます。
とはいえ、オーダーメイド型組織サーベイを実施したことがない方にとっては、一体どのようなものなのか見当が付かないかもしれません。オーダーメイド型組織サーベイの種類は企業の数だけありますが、弊社で提供したケースをもとにいくつか例を挙げてみます。
(1)リテンションサーベイ
離職を促す要因を明らかにするため、組織サーベイを実施しました。
(2)エンゲージメントサーベイ
近年「エンゲージメント」という概念が重要視されてきていますが、この概念に注目し、働きがいを高める方法を検討するために実施しました。
(3)キャリアサーベイ
従業員のキャリア意識やキャリア展望など、キャリアに対する考え方を可視化しました。
(4)テレワークサーベイ
新型コロナウイルス感染症の拡大から、テレワークを導入する企業が増えています。そのような中、どうすれば在宅勤務のストレスを軽減し、より効率的・効果的に勤務できるかを明らかにするためのサーベイをオーダーメイド型で提供しました。
これらはあくまで一部で、それぞれの会社が直面している課題に応じて、オーダーメイドで組織サーベイを作っていく。これがオーダーメイド型の組織サーベイの例になっています。
具体的な名前は言いませんが、「組織サーベイ」と検索していただくと、たくさんの種類のパッケージ型の商品が出てくると思います。大手企業が出しているものもあれば、近年はベンチャー企業が組織サーベイのパッケージ型のサービスをリリースするといったケースも目立つようになっていますね。恐らくパッケージ型のほうが「組織サーベイ」というときに、まずは思い付くものではないでしょうか。
本日は、パッケージ型組織サーベイをどのように選べばいいのか、どのような場合にオーダーメイド型を選択するといいのか説明します。
基本用語の確認
解説に入る前に、組織サーベイを巡る四つの基本的な用語を確認します。
概念
組織サーベイの文脈で用いる「概念」とは、組織サーベイで測定したいもののことです。概念自体は直接目に見えるものではないので、観察することはできません。しかし、観察可能な行動や事象から構成されるものです。
とても抽象的に聞こえるかもしれませんが、概念は、組織サーベイの世界では非常にありふれたものです。
例えば、今まで使ってきた言葉の中にも概念は出てきています。例えば「エンゲージメント」も概念にあたります。エンゲージメントそのものは、目に見えるわけではないですよね。他にも「組織風土」や、最近注目を集めている「心理的安全性」、「リーダーシップ」などもそうです。リーダーシップそのものは目に見えませんが、リーダーである上司の行動は直接観察することができます。
このように、「測定したいけれども直接観察できないもの」のことを概念と呼びます。
その意味で、パッケージ型の組織サーベイのアウトプットイメージを見たことがある方であれば、ピンとくると思います。アウトプットイメージにはさまざまな指標が書かれていますよね。「この指標はこれぐらいの値」という結果が、グラフ等で示されています。それぞれの指標が概念である場合がかなり多いですね。ですので、組織サーベイは、数多くの概念から構成されているというのが特徴です。
項目
項目とは、概念を測定するための質問項目のことです。組織サーベイでは、一つの概念を測定するために複数の項目を用いるケースが一般的です。例えば、エンゲージメントを測定するときに「あなたはエンゲージメントが高いですか」とダイレクトに聞くケースはないと思います。「朝起きて目が覚めたら今日も仕事に行こうと思う」「仕事をしていると活力がみなぎってくる」等、複数の質問項目で尋ね、それらの回答を合算して「エンゲージメント」という概念を測定します。
従業員の立場として組織サーベイを受けるとき、「似たような質問が多いな」と感じるケースもあると思います。それは、実は意図的にそのようにしているということです。
成果指標
様々な呼び方があると思いますが、本日のセミナーでは「成果指標」と呼んでおきます。成果指標とは、人や組織の目指すべき/避けるべき状態を表す概念のことです。目指すべき状態、避けるべき状態を表す概念と言い換えることもできますね。
リテンションサーベイ(離職意思を促す要因を明らかにするサーベイ)を例にとって説明します。このサーベイにおいては、成果指標は「離職意思」となります。離職意思が高い状態が避けるべき状態ですよね。離職意思は観察可能ではありません。そのため、概念として複数の質問項目で捉えていく必要があります。
あるいは「エンゲージメントサーベイ」のケースでは、「働きがい」が成果指標となります。働きがいが高い状態を目指していくために組織サーベイを行うので、これが成果指標になるということです。
このように、組織サーベイを行うからには、何かしら目指すべき状態・もしくは避けるべき状態を掲げます。その目指すべき状態・避けるべき状態を表す概念のことを成果指標と呼びます。
影響指標
成果指標を促進/阻害する概念のことを指します。
引き続きエンゲージメントサーベイを例にとります。「働きがい」という成果指標を掲げたとすると、影響指標としてさまざまなものが考えられます。例えば、上司からのサポートがあったほうが働きがいは高まるかもしれません。そういう場合は、「上司からのサポート」が影響指標になります。また、決められた仕事より自立的に仕事ができるほうが、働きがいは高まるかもしれません。そのような場合は「仕事の自律性」も影響指標と位置付けられます。さらに、仕事の役割が明確だと働きがいが高まりやすそうだという場合には、影響指標として「役割の明確さ」がしたり阻害したりするものを影響指標と呼んでいます。
組織サーベイを選ぶ6つのステップ
ここから本題に入っていきます。以下の6つのステップに分けて組織サーベイを選んでいけば、自社に合った組織サーベイを選ぶことができます。これから各ステップについて解説していきます。
step1. 成果指標の概念を挙げる
組織サーベイを選ぶ際に、まずはパンフレットを取り寄せる方もいらっしゃると思いますが、最初にすべきなのは自社にとっての成果指標を挙げることです。自社が目指すべき状態・避けるべき状態とはどのような状態かを考えることが重要です。
例えば、会社に愛着を持っていることが自社にとっての成果指標だというケースもあるでしょうし、仕事に活力をもって取り組んでいる状態が目指すべき状態だという会社もあるでしょう。これは本当に企業ごとに異なりますので、ぜひ組織サーベイの導入前に考えてみてください。そして、それを一言で表現してみてください。
step2. 成果指標の定義を考える
自社にとっての成果指標を挙げたら、その定義を設定します。というのも、定義をよく考えておかないと、成果指標を定めたとしても組織サーベイ選びに失敗するケースがあるからです。
例えば、「エンゲージメント」を成果指標として挙げたとします。エンゲージメントを測定できる組織サーベイはたくさんありますので、それらを比較検討して選び、実際にアンケートをとったとします。そこでふと気がつくと、組織サーベイで定義している「エンゲージメント」が、自社の考えるエンゲージメントとずれているということに気づくケースがあるのです。
どのようなことかというと、例えば、サービスサイドではエンゲージメントを「組織に対して愛着を持っていること」と定義していたのに対し、自社では「仕事に対して活力をもっていること」をエンゲージメントだと捉えていた・・・というようなことです。「組織への愛着」と「仕事への活力」は、同じ「エンゲージメント」という言葉で語られることがありますが、実際は別ですよね。このように、同じ概念を使っていても、定義が異なっているケースは割と多く見られます。ですので、定義まできちんとした上で組織サーベイを判断していくということが大事になります。
成果指標とその定義を挙げていく際に注意していただきたいのが、あらかじめこの段階で、組織サーベイを巡るステークホルダーの間で、成果指標とその定義の摺り合わせをして合意を得ておくことです。きちんと合意を得ていないと、例えば人事サイドが「仕事への活力」と定義したエンゲージメントを測定する組織サーベイを導入し、結果を経営層に報告した際に「今、それを測定する必要ある?」と言われてしまったとしたら、どうしようもないですよね。ですので、定義をきちんと行うということに加えて、その定義を利害関係者の間ですり合わせするということも忘れないようにしていただければと思います。
ここまでのところで、成果指標を概念で表したり定義したりするのがなかなか難しいというケースもあるかもしれません。この段階から外部の専門家と一緒に考えていく必要がありそうだという場合には、オーダーメイド型が有効です。自分たちの目指すべき状態がはっきりしているかどうかによって、パッケージ型とオーダーメイド型どちらを選ぶのかが分かれてきます。
step3. 成果指標を含むパッケージ型を探す
ここまでのステップで定義した成果指標を含むパッケージ型の組織サーベイを探します。できれば自社の定義した成果指標を前面に出している組織サーベイがあると一番いいですね。インターネットで探してもいいですし、営業担当が付いている場合には、そのまま「このような成果指標を測定するような組織サーベイを御社では提供していますか」と尋ねても良いでしょう。
ここで一点注意が必要で、自社の定義した成果指標を含んでいない組織サーベイは、基本的に選んではいけません。当たり前ですが、自社が目指すべきところが含まれていない組織サーベイを導入してしまうと、何のために組織サーベイをしているのか分からなくなってしまいます。
もし、自社で定義した成果指標が独特で、検索しても、営業の人に話を聞いても、そういうパッケージ型のサービスが提供されていないという場合には、オーダーメイド型組織サーベイを検討すると良いでしょう。
いずれにせよ、まずは成果指標を自分たちなりに定義し、それらを含んでいるパッケージ型組織サーベイがないかを調べた上で、なければオーダーメイド型を検討する、という流れになります。
step4. 影響指標の候補を挙げる
先ほど説明したとおり、影響指標というのは、成果指標を促したり阻害したりするもののことでした。それを自分たちなりに考えてみるというのが4つ目のステップです。例えば、「仕事への活力」を成果指標として定義したとすると、それを促したり、阻害したりするものが何かを、まずは仮説ベースでも構わないので、自社内で考えてみることが大事です。
とはいえ、いざ考えてみるとなかなか難しいと思う方もいらっしゃるかもしれません。そこで、影響指標を考える上で役に立つ知識を3つ紹介します。
まず一つが「研究知」、すなわち学術研究の知識です。仕事への活力は「ワークエンゲージメント」とも呼ばれます。そうすると「ワークエンゲージメント」を高める要因を調べていけば良いということになります。
二つ目が「実践知」、つまり皆さんが仕事経験の中で積み重ねてきた知識です。「こういうケースを見たことがある」、「以前の部下がこうだった」等の経験から得られた知識を基に影響指標を考えると良いでしょう。
最後に「調査知」です。今まで組織サーベイを行ったことがある場合には、過去の調査結果を参照しながら影響指標になりそうなものを考えていくこともできます。
これらの研究知・実践知・調査知を手掛かりにしながら、影響指標を考えてみてください。影響指標を挙げるのが難しい、あるいは何が影響指標か分からないという場合には、オーダーメイド型を検討すると良いでしょう。
step5. パッケージ型の影響指標を見極める
自社の考える影響指標の候補を挙げたら、今度はパッケージ型組織サーベイの影響指標を見極めます。それぞれのサービスでは、強調しているコンセプトがきっとあるはずです。それが成果指標に当たる場合が多いです。例えば「エンゲージメントを高めるサーベイです」と書かれていれば、成果指標がエンゲージメントということになります。逆に言うと、それ以外で測定するものが影響指標であるケースがほとんどです。ですので、主要なコンセプトが成果指標、それ以外が影響指標というふうに分けて、サービスの中身を分類してみると見通しがつきやすくなります。アウトプットイメージを見せてもらえる場合には、それが一番良いでしょう。アウトプットの中には様々な概念が出てきますが、その中で成果指標と影響指標を分類してみましょう。
このように区分すると、たまに影響指標がない、つまり成果指標だけで成り立っているサーベイがあります。影響指標のないサーベイは個人的にはあまりお勧めしません。というのは、例えばエンゲージメントという成果指標だけを測定するサーベイをイメージしていただきたいんですね。そういうサーベイを行うと、エンゲージメントが高いか低いかは分かるのですが、エンゲージメントが低かったときに、どのような対策をとればいいのかが分からないのです。原因が分からないからです。この原因に当たるのが影響指標ですので、影響指標がないと対策を考えるのが難しくなってしまいます。そのような理由で、影響指標があるサーベイをお勧めします。
また、影響指標が挙げられているとしても、次に見ていくべきポイントは、それが影響指標といえる根拠が何かという点です。つまり成果指標に本当に影響するということが、きちんと根拠を持って示されている組織サーベイをぜひ選んでいただきたいのです。とにかく網羅的に何か挙げてみたという組織サーベイではなく、成果指標に影響することがきちんと検証されている組織サーベイを選んでいただくのが最もいいですね。
また実務的にも、「できる限り質問項目は少ないほうがいい」という声は多く聞きます。それを考慮しても、とにかく網羅的に尋ねるサーベイよりは、少ない項目数でもきちんと検証された影響指標を測定できる組織サーベイのほうがいいということです。
step6. 影響指標の重複度合いを確認する
いよいよ最後のステップです。自社で影響指標の候補を挙げ、パッケージ型組織サーベイの成果指標と影響指標を区分したら、自社で検討した影響指標の候補とパッケージ型の影響指標を比べてみましょう。そうすると、重なりがどのくらいあるかが見えてきます。自社で挙げた影響指標と、結構重なっている組織サーベイもあれば、全然違うケース、あるいは、重なっていない部分が非常に多いものもあるかもしれません。この重なり度合いをぜひ見ていただきたいと思います。
重なりが少ないと、無駄が多くなってしまいます。せっかく従業員に回答してもらっている時間があまり活かせなくなってしまいます。重なりが小さいというのは、過不足が多いということですね。そのようなサービスはあまりお勧めしません。
逆に重複が大きいようであれば、自社に合っている可能性が高いので、それは自社にとって良い組織サーベイだと判断できます。もし、自社で挙げた影響指標がパッケージ型の中にない場合や、自社の影響指標とパッケージ型の影響指標の重複があまりない場合、あるいは影響指標の根拠がしっかりしていない場合には、オーダーメイド型が有効になります。
組織サーベイの品質の見極め方
最後に品質の基準について簡単に説明します。自社に合っているものであってもやはり最低限の品質をクリアしていることが必要です。
品質を見ていくときにありがちなのは、私もアカデミズムの出身なので少々心苦しくはありますが、例えば「○○教授が監修しています」ということだけで品質が保証されるわけではありません。もちろん、監修のもときちんとした品質で提供されているものもありますが、監修と書いてあるだけで絶対に品質がOKかというと、そういうわけでもありません。ですので、ここからは、品質を見抜くための情報提供をできればと思います。
品質を見極める基準として、次の二点の観点があります。一つが「妥当性」で、測定すべき概念が正しく測定されていることを指します。もう一つが「信頼性」で、一貫性を持って測定されていることを指します。この「妥当性」と「信頼性」がきちんと検証されている組織サーベイが、品質の基準を満たしているサーベイになります。本当はもう少し掘り下げてもいいのですが、今回は「妥当性」と「信頼性」という言葉だけ、まずは覚えていただけるとありがたいなと思います。
パッケージ型の組織サーベイの場合は、妥当性と信頼性について細かく調べていくのはなかなか大変だと思うので、単純に提供している企業に聞いてみるのが早いです。「妥当性と信頼性をどのように検証しましたか」と質問すると良いでしょう。きちんと検証している企業は、これに確実に答えられます。「こういうプロセスで検証しました」と公開されているケースもありますね。
オーダーメイド型の場合には、妥当性・信頼性を担保して測定や分析を行っていく必要がありますが、それをどういう形で行うかを聞いてみるといいと思います。これもしっかり答えられるかどうかということが大事になります。
このような形で、自社に合った、かつ品質のいいサーベイをぜひ選んでいただきたいと思います。
Q&A
Q.最近流行りのパルスサーベイと組織サーベイを混同している方もみられますが。
パルスサーベイという、高頻度で測定を行っていくサーベイがあります。高頻度で行う分、質問項目が少ないサーベイのことです。組織サーベイはどちらかというと、1年に1回とか、ワンショットで多くの質問項目で行うケースが多いです。本日お話ししたことは、実はどちらのサーベイでも成り立つことですので、パスルサーベイを選ぶ際にも、組織サーベイを選ぶ際にも、本日の内容を参考にしていただければと思います。
Q.自社に合った質問項目にカスタマイズすることが大事だと思います。カスタマイズをする際にベンダーにうまくニーズを伝達して、ウィンウィンの関係を構築するにはどうしたらいいでしょうか。
依頼先との関係構築ですね。これは幾つかの観点があります。まずパッケージ型の中には、カスタマイズの余地があるケースとないケースがあります。カスタマイズの余地がないケースの場合、本日お話ししたような厳密なプロセスで、当てはまらない点があれば変更ができないので選ばないほうがいいですね。ただ、カスタマイズしてくれるのであれば、こちらがニーズをお伝えするということに加えて、やはり知識を使っていくのが大事ですね。
ニーズだけではなくて、例えばエンゲージメントとその要因を明らかにしたい場合には、その要因が何なのか、精度の高い仮設を設計する必要があります。その際に、ベンダーと自社のどちらかが答えを持っているというのではなくて、一緒に考えていけるような関係性をつくっていくと、カスタマイズやオーダーメイドはうまくいくと思います。単なる発注側と受注側という関係性になってしまうと、特にオーダーメイド型、ないしはパッケージをカスタマイズする際には困ってしまうこともあると思います。対等なパートナーとしてできると良いですね。
Q.パッケージ型の組織サーベイがどれも甲乙付け難いところがあり、作るのも一つかなと考えていますがどう思われますか。
面白い質問ですね。オーダーメイド型は一つの考え方としてありかなと思います。ビジネスリサーチラボは企業向けのお客様にはパッケージ型を提供していませんが、パッケージ型の開発を支援することもありますし、オーダーメイド型を人事向けに提供する場合もあります。両方ともやはり、メリットとデメリットがあります。
特にオーダーメイド型についてお伝えすると、メリットとしては、やはり自社に完璧にフィットしたサーベイを作ることができるというのが魅力ですね。他方で、フィットしたものを作る分、やはり時間がかかります。例えば設計から回収~結果が出てくるまでには3カ月程かかります。ですので、急いでいるケースではあまりふさわしくありません。
また、オーダーメイド型で作る場合、結構な専門知識が必要になります。質問項目を作れて、グラフを作れれば大丈夫かなと思いきや、これはビジネスリサーチラボで様々なセミナーやコラムで解説しているのでそちらを見ていただければと思いますが、それはそれで非常に高い専門性が必要です。ですので、作る際にきちんとしたパートナーを選ぶことが重要になります。基本的な品質を確保することができるということに加えて、分析に関する知識もきちんと持っている。それから、そのテーマに関する知識を持っていることも大事です。例えば、リテンションに関する組織サーベイを実施したいのであれば、離職・定着の問題について専門的な知識を持っているパートナーを探すということです。
Q.似たような組織サーベイが多く、成果指標が似ている感覚があります。どの影響指標で選べばいいかも多種多様で難しいです。この場合どの点を重視すべきでしょうか。
これは順番が大事です。最初に、自社で成果指標を厳密に定義していただきたいんですね。自社で、様々なステークホルダーを巻き込みながら、自分たちが目指す姿はどのようなものなのかを明確にしてください。それが組織サーベイの比較軸になります。似ているサーベイはたくさんありますが、似ているとはいえ微妙に異なっているんですよね。特に成果指標は非常に大事なので、自社にぴたっと当てはまるものがないとパッケージ型が機能しなくなってしまいます。
自社の考える成果指標と合っているものがないかどうかというのを見てみると、思ったよりも組織サーベイの候補が減るはずです。ですので、パンフレットをたくさん取り寄せるのではなくて、まずは自分たちで成果指標を定義してからサービスを見ていく、この順番でやっていくと分かりやすくなると思います。
先ほど影響指標の選び方に関する質問もいただきましたが、これはやはり根拠があるかどうかを見ていかれると良いでしょう。「本当にその影響指標は成果指標を促すんですか」ということを思い切って聞いてみたりすると選びやすくなるかなというところです。
Q.成果指標に対する影響指標の影響度合いを自社で計測する手法はありますか
これはまさにオーダーメイド型ですね。オーダーメイド型で分析する手法はあります。影響度を分析するという統計的な分析の手法があります。今回は詳しくは申し上げないんですが、その中の一つに回帰分析というやり方があります。回帰分析については、ビジネスリサーチラボのコラムを見ていただければと思います。
※参考:
人事のためのデータ分析入門:「回帰分析~要因を見出すための分析~」
講師
伊達 洋駆
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方』(日本能率協会マネジメントセンター)や『人材マネジメント用語図鑑』(共著;ソシム)など。