2021年10月27日
オンライン面接で嘘は見抜けるのか:印象管理の科学(セミナーレポート)
株式会社ビジネスリサーチラボは、2021年5月24日にセミナー「オンライン面接で嘘は見抜けるのか:印象管理の科学」を開催しました。本レポートは当日の内容を編集・再構成したものです。
採用面接では印象管理が行われる
印象管理(Impression Management)とは「他者に与える印象を作るための行動」を指します。例えば、自分を良く見せようとする・相手の好みに合わせようとすること、場合によっては話を捏造することも印象管理に当たります。
面接でどのような質問をしたとしても、面接を受けている全員が印象管理を行ったという研究もあります。候補者は基本的に印象管理を行っていると考えたほうがいいでしょう。
それにしても、なぜ面接において候補者は印象管理をするのでしょうか。ある研究において、学生に面接を行う実験を行い、2つの条件を設定しました。一つは面接の結果、評価が高ければお金がもらえると学生が知らされている条件(ストロング条件)です。もう一つは、お金がもらえるといったインセンティブがない条件(ウィーク条件)です。
これら2条件の結果を比較すると、ストロング条件では、面接を受ける側の性格にかかわらず、印象管理を行っていました。面接で上手く振る舞うことが評価される状況では、どのような性格であっても印象管理を行うということです。
採用面接は候補者にとってインセンティブがある状況、つまり、高い評価を得ればその会社で働けるかもしれないという状況です。そのため、候補者は印象管理を行うのです。
正直な印象管理とフェイキングは異なる
印象管理という言葉だけを聞くと、ネガティブな印象を持たれるかもしれません。しかし、良い印象管理もあれば、そうではない印象管理もあることが指摘されています。
良い印象管理として言及されるのが、「正直な印象管理」というものです。これは、嘘をつかずに自己アピールすることを指します。対して、良くない印象管理に当たるのが「不正直な印象管理」というもので、別名「フェイキング」とも呼びます。フェイキングは、嘘も含む印象管理になります。
フェイキングをより丁寧に定義すると「面接で良い評価を得るために、面接官の質問に対して、候補者が回答を意図的にゆがめること」となります。候補者が行う印象管理のうち、フェイキングは、およそ3~7割を占めることが分かっています。
面接官は候補者の嘘を見抜けるのか
では、面接官は候補者の嘘=フェイキングを見抜くことができるのでしょうか。一つの興味深い研究を紹介します。その研究では、候補者が面接で受け答えする様子をビデオで撮影しました。その上で、ビデオを候補者自身が見返し、「この瞬間に自分は、こういう種類の印象管理をやっていた」と記しました。
まずは、候補者が行っていた印象管理の種類を取り上げましょう。正直な印象管理については、「自分の能力を高く見せる」「相手への好意を見せる」「相手の価値観を支持する」「ネガティブな印象を修正する」といったことが行われていました。
フェイキング(不正直な印象管理)については、「自分を飾ったり相手好みに見せたりする」「他の人の経験や業績を自分のものとして話す」「不正直に相手の価値観を支持する」「好ましくない側面をあえて隠す」ということが行われていました。
続いて、今度は面接官がビデオを見ながら、「この瞬間に候補者は、こういう種類の印象管理をやっていたのだろう」と推測し、記録していきます。ちなみに、ビデオを見ながら印象管理を見抜く状況は、現在のオンライン面接に重なる部分がありますね。
結果ですが、面接官が印象管理を見抜けた割合は、どのぐらいだったと思いますか。面接官によってばらつきがありますが、正直な印象管理については、13.4~29.1%見極められていました。他方で、フェイキングについては11.8~18.5%にとどまりました。
いずれの割合も決して高いとは言えませんが、フェイキングについては、ほとんど見抜けていないと言っても過言ではありません。
しかも、この研究では、面接官としての経験の長い人でも短い人でも、印象管理を見抜けないという意味では変わらないことが明らかになっています。この点は他の研究でも検証されており、経験豊富な面接官と素人の面接官を比べても、嘘を見抜く精度は変わりません。
さらに、意識的に嘘を見抜こうとするときと、嘘を見抜こうという気持ちがなく単純にコミュニケーションしているときでは、後者のほうが嘘を見抜けることも分かっています。
以上をまとめると、「面接官は候補者の嘘を見抜けるのか」という問いに対しては、残念ながら、
- 基本的に無理そう
- 面接経験を積んでも無理そう
- 意識しても無理そう
との結論になります。
非言語的手がかりを用いた印象管理が減る
ここからは、オンラインにおける印象管理について検討します。まず、オンラインの状況では、対面と比べて「非言語的手がかり」が制限されます。非言語的手がかりには、言葉以外の情報、例えば表情、声の調子、身ぶり手ぶり、服装、容姿、周辺の環境などが含まれます。
印象管理の中には、非言語的手がかりを用いるものがあります。アイコンタクトはその一例です。相手の話を聞くときに相手の顔を見ることで、話をしっかり聞いていることを伝えられます。他にも笑顔を見せたり、大きくうなずいたりするのも非言語的手がかりによる印象管理です。
非言語的手がかりによる印象管理は面接評価との関連が強いことが分かっています。面接評価を決める要因の一つに、非言語的手がかりによる印象管理があるということです。ただし、先の通り、オンラインの環境では非言語的手がかりが減り、非言語的手がかりを用いた印象管理が行いにくくなります。
例えば、オンライン面接では、相手と自分の目線が原理的に合いにくく、アイコンタクトが十分に得られません。ある研究では、視線が合わないことで、候補者の誠実性を感じにくいことが検証されています。
さらに興味深いことに、オンライン面接を受ける候補者側も、対面の面接と比べると、オンライン面接では印象管理はあまりできないと考えており、なおかつ、実際に印象管理が減ることも明らかになっています。
いかに候補者の印象管理を減らすか
先ほどお話した通り、印象管理の研究を参考にすれば、候補者の嘘を見抜くことはかなり難しいと言えます。印象管理を見抜けないとすれば、「印象管理をいかに見抜くか」という問い自体が意味を成しません。
それよりも、「候補者の印象管理をいかに減らすのか」を考えるほうが重要です。候補者の印象管理を減らす方法として、次の4点を挙げることができます。
①面接をオンラインで行う
面接のオンライン化によって候補者の印象管理をいくぶん減らすことができます。今は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、オンライン面接を余儀なくされている企業も多いでしょう。しかし、オンライン化には印象管理を抑制する効果もあるわけです。
②嘘を検知できると警告する
ある実験を紹介します。面接を受け、評価が高かった人には報酬があるという条件を設定します。面接を受ける前に、候補者に2種類の警告を出します。
一つは、道徳的に警告するものです。面接を受ける前に、「緊張すると思いますが、正直でいることが大事です」と話します。そうすることで、候補者は「印象管理をやめておこうかな」という気持ちになるかもしれません。
もう一つが、「嘘を検知できる」と警告するものです。「質問に答えてもらうと、あなたがどれぐらい正直か分かります」と伝えます。
結果、道徳的に警告した場合のほうが印象管理の数が多いことが分かりました。裏を返せば、「あなたが嘘をつくかどうか、こちらは見抜ける」と伝えた場合は、候補者の印象管理が少なくなるということです。
なぜこのような結果になったのでしょうか。「透明性の錯覚」という心理傾向が解釈に役立ちます。これは、自分の心理が相手に見透かされていると実際以上に思う傾向を指します。「あなたの嘘は検知できますよ」と面接官が告げると、候補者における「透明性の錯覚」が高まり、印象管理を減らすのかもしれません。
しかし、先ほどまさに面接官が候補者の嘘を見抜けないことを確認したように、「嘘を検知できます」というのは面接官側の嘘に当たります。候補者に対して「嘘をついてはいけない」と思っているのに、面接官側が嘘をついて候補者の嘘を減らす方法は倫理的に許容されるでしょうか。あまりお勧めしない方法ではあります。
③自社の選考基準を伝える
ある研究によれば、面接の成功を指南するビデオを視聴するほど、また営利企業のセミナーで面接対策を受講するほど、フェイキングが増えるということが分かっています。これら2つに共通するのは、就職活動を攻略するための一般的な情報を得ている点です。
この結果をもとに、この研究の著者は興味深い提案をしています。「自社の選考基準」を候補者にきちんと知らせることで、フェイキングを抑制できるのではないかという提案です。自分に合った会社に入らないと、入社後にリアリティショックを受け、候補者にとっても会社にとっても良くないと併せて伝えれば、一層効果的です。
④面接以外の方法を模索する
採用面接の場面と仕事を実際に行う場面では、採用面接の場面のほうが、より頻繁に印象管理を行うことが検証されています。
例えば、ワークサンプルといって、実際に入社した後に行うことになる仕事の一部を候補者に行ってもらって評価する方法があります。ワークサンプルは仕事を実際に行う場面に近く、面接と比べると、印象管理が少なくなる可能性があります。
Q&A:フェイキングが得意な人材は有能か
ここからは、参加者の皆さまからいただいた質問に回答していきます。
ばれないフェイキングが得意な応募者は、特殊能力を保有する者として評価できるのではないでしょうか。 |
企業のスタンスによるのではないでしょうか。営業担当として商品を売るために「嘘も方便」という会社にとって、フェイキングは有効な能力とみなされるかもしれません。他方で、営業担当がフェイキングすると、顧客の期待値が適正なものにならないため、フェイキングをうまく行う人は雇いたくないという企業もありえます。
採用企業側の担当者も自社を良く見せ、候補者を引き付けたい目的で印象管理を行うこともありますか。 |
面白い質問ですね。あるはずです。面接というコミュニケーションが印象管理を喚起するのは、高く評価されたいという動機が働くからです。この動機は候補者だけではなく、企業にも働きます。企業は自社を良く見せ、惹きつけなければなりません。そのため、企業側も印象管理を行っている可能性は高いと言えます。
多くの企業でコミュニケーション能力重視を掲げていますが、学生から見ると、コミュニケーション能力とは具体的にどういうものか分かっていない場合があります。この場合、学生にはコミュニケーションが求められる場面の実際や、具体的事例などを質問させれば良いということでしょうか |
選考基準を伝えることで嘘をつく回数を減らすという話に関連したご質問ですね。気をつけたいのは、選考基準を抽象的に伝えると、解釈が人によって異なってしまいます。その典型がコミュニケーション能力です。これを防ぐために、選考基準を具体的に定義し、象徴的な人材や場面を伝えると良いと思います。
(了)
講師
伊達 洋駆
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、ピープルアナリティクスやエンゲージメントサーベイのサービスを提供している。著書に『オンライン採用』(日本能率協会マネジメントセンター)、『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(共著:ソシム)など。