2020年9月28日
ウィズコロナ下で注目されるキャリア自律:キャリア自律は離職を促すのか?
コロナ下で改めて注目されるキャリア自律
会社が従業員のキャリアを主導する、日本的な働き方。その限界と共に「キャリア自律」の必要性が提案されて、いくらか時が経っています。
ここにきて、新型コロナウイルスの感染拡大がキャリア自律への注目を急激に後押ししています。リモートワークの導入で、企業が従業員の働き方をコントロールしにくくなったからだ、と言われています。
そもそもキャリア自律とは、どのような状態でしょうか。その効果は何でしょうか。こうしたことを、本コラムでは学術研究と組織サーベイからの知見を頼りにお伝えします。
キャリア・アダプタビリティと4つの構成要素
キャリア自律に近い学術的な概念として、「キャリア・アダプタビリティ」というものがあります。キャリア・アダプタビリティについて理解すれば、キャリア自律についても理解が深まるはずです。
どのような人でも、職業上の課題や移行など、キャリアを進める上で予期せぬ困難に直面することがあります。そうした困難に対して心理的に備えができている状態をキャリア・アダプタビリティと呼びます(※1)。
キャリア・アダプタビリティは4つの要素から構成されます(※2)。
- Concern:自分の未来を考え、備えていること
- Control:自己決定や自己責任の感覚を持っていること
- Curiosity:周囲を探索したり、成長の機会を得ようとしたりしていること
- Confidence:効果的に振る舞えたり、新しいスキルを学べたりする自信
ビジネスリサーチラボでは、日系企業A社をクライアントに、キャリア意識に関する調査を提供したことがあります。その際、これら4要素そのものではないですが、それに類似する要素を測定しました。
分析の結果、要素間に非常に強い相関が認められました。ある要素が高い人は他の要素も高かった、ということです。ここから、キャリア・アダプタビリティの構成要素は相互に連動していることが推測できます。
キャリア・アダプタビリティには多様な効果がある
キャリア・アダプタビリティの研究は、国際的に一定の蓄積が進んでいます。それらの研究の結果を総合的に分析した論文を参考に、キャリア・アダプタビリティの「効果」を見ていきましょう(※3)。
例えば、キャリア・アダプタビリティが高いほど
- キャリアに満足している
- 人生に満足している
- 収入が高い
- 仕事のパフォーマンスが高い
- 会社への愛着を持っている
- 仕事のストレスが小さい
- 働きがいを感じている
- 離職をしようと考えていない 等
が明らかになりました。
このように、学術研究に基づけば、キャリア自律は多くの良い成果を連れてきます。
キャリア支援は遠心力と求心力の両方を高める
キャリア・アダプタビリティの効果を見る限り、従業員のキャリア自律支援を進めた方が、企業にとっての得るものが大きいと考えられます。
しかし、この主張に違和感を覚える人もいるかもしれません。従業員のキャリア自律支援なんてしようものなら、従業員は会社を辞めてしまうのではないか、と。
確かに、キャリア自律支援が「二重」の影響を及ぼすことを示す研究もあります(※4)。具体的には、上司から部下のキャリアに対する支援が行われると、2つの異なる影響が生まれます。
- キャリア・アダプタビリティが高まり、その結果、離職したい気持ちが「上がる」
- 会社に対する愛着が高まり、その結果、離職したい気持ちが「下がる」
つまり、キャリア自律支援は離職意思を上げる作用(遠心力)と下げる作用(求心力)の両方を持っている、ということです。
キャリア自律やその支援は離職意思を下げる
しかし、先述の通り、キャリア・アダプタビリティの研究蓄積においては、総じてキャリア・アダプタビリティは離職意思を下げる、という結果が得られていたことを思い出してください。
その意味で、キャリア自律がもたらす求心力と遠心力を比べると、求心力、すなわち離職意思を下げる作用の方が強い、と考えられます。
弊社では、日系企業B社をクライアントに組織サーベイを実施した際、上司とのコミュニケーションの質が部下の自律的なキャリア形成を高めること。自律的なキャリア形成を行っている人ほど会社への一体感を持っていること、が明らかになりました。
会社への一体感は、離職を抑制する要因であることが知られています。弊社の分析結果もまた、キャリア自律やその支援が離職をむしろ遠ざけることを立証していると言えます。
関連セミナー:
WASEDA NEOオンライン講座 人と組織のマネジメントバイアス「キャリア開発の科学」
日時:2020年10月1日(木)16:30-18:00
定員:100名
参加費:3,300円
詳細・お申込み:https://wasedaneo.jp/course/course-detail/4920/
※申込期限は2020年9月30日(水)13:00です。
※1:Super, D. E. and Knasel, E. G. (1981). Career development in adulthood: Some theoretical problems and a possible solution. British Journal of Guidance & Counselling, 9(2), 194-201.
※2:Savickas, M. L. and Porfeli, E. J. (2012). Career Adapt-Abilities Scale: Construction, reliability, and measurement equivalence across 13 countries. Journal of Vocational Behavior, 80(3), 661-673.
※3:Rudolph, C. W., Lavigne, K. N., and Zacher, H. (2017). Career adaptability: A meta-analysis of relationships with measures of adaptivity, adapting responses, and adaptation results. Journal of Vocational Behavior, 98, 17-34.
※4:Ito, J. K., and Brotheridge, C. M. (2005). Does supporting employees’ career adaptability lead to commitment, turnover, or both?. Human Resource Management, 44(1), 5-19.